シリーズ第4弾・ヤス子篇

b0042958_114028.jpgb0042958_115073.jpg「ね?今さら『てじなーにゃ』とかそうやって可愛く言って出してみたってダメなの。おばあちゃんがポケットに隠していたのは、レジでお金払わずに持ってき商品でしょ?立派な犯罪行為なんですよ!」
ピロ治郎の妻・ヤス子は怒りと哀しさを押さえながら、そう言った。常習犯の老婆は、今回は警察には通報しなければいけないだろう…。

ヤス子はスーパーマーケット「くじらおか」のパート社員として働いている。名札に書いてある「管理キャプテン」とは名前ばかりで、万引きの見張りや店内アナウンスなど、要するに雑用係だ。今年でもう7年目になる。時々体力的に辛いので、本当は辞めたい気持ちもあるのだが、長女のピロ子も今年から大学に入学したので仕送りもしなければいけないし、次男のピロイチも高校受験に向けて学習塾に通わせなければいけない…。

「♪北のぉ酒場通りにはぁ長ぁいモツの女が似合う〜」
と、突然店内にダミ声で唄われる声が鳴り響いた。
万引き犯の老婆を他の店員にあずけて、ヤス子は店内に戻る。客もあっけにとられている。曲は往年の細川たかしのヒット曲「北酒場」だが、歌詞もところどころ変でアカペラである。どう考えても通常の店内BGMではない。誰かがイタズラをしているのか。
「♪ちょっとぉお人よしがいい〜落ち込み上手な方がいい〜」
店内アナウンスが出来るマイクは惣菜コーナーの隅に設置してある。現場に走りながら、ヤス子は考えた。決して目立ちはしないが、一度アナウンスしているところを観ていれば、マイクは勝手に誰でも使うことは出来るだろう。しかし、誰が店内マイクをジャックするなんて考えるだろうか?
「♪今夜の恋はぁマイトの先に火をつけてくれるヒトぉ〜」
鮮魚コーナーの角を曲がって、マイクを握っている赤ら顔の中年男性を見つけた。ヤス子は身震いした。
夫・ピロ治郎であった。ピロ治郎は年に一回ほど泥酔していつも事件を起こしていた。酒が弱いとわかっているのに、仕事仲間からの誘いを断りきれず、時々撃沈してしまうのだ。一瞬のうちにヤス子は考えた。
マイクを握っているのが自分の夫だと発覚→パートは辞めなければいけない→仕送りや学習塾代が滞る→なので警察沙汰はまずい→どうにかこうにかして事件をうやむやにしなければ…。それはペンタゴンの高速コンピュータに負けない速さの思考能力だった。
そして、0.5秒後。
マイクジャック犯に対するヤス子の行動とは、跳び蹴りするための跳躍であった。     了


また来世〜。
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by sirokumaism | 2004-11-10 01:08 | マイドリーム


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